アメリカの信仰の現状と歴代大統領の出身教会
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アメリカは宗教的な国家で、統計上アメリカ人の9割近くは何らかの超越的な存在を信じ、約8割はキリスト教の神を信じている、といいます。今回はその内実を見てみたいと思います。
アメリカ信仰の現状
冒頭のデータと一見矛盾するデータが存在します。そちらによれば、伝統的なプロテスタント教会(いわゆるメインライン教会)の信者は国民の10%にも届きません。
メインライン教会を離脱した人の多くは、教派横断的なエヴァンジェリカル(福音派)に行くか、アメリカではつねにマイナーだったカトリックに行ったと言われます。
下図をご覧ください。
- 保守本流といわれる白人共和党支持者は7割以上が聖書の神を信じており、これは先進諸国のなかで抜きんでた数字です。
- 神を信じる伝統は共和党支持者ほど強いのですが、面白いのは白人以外の場合、共和党支持者も民主党支持者も信仰に関して差がほとんどない点です。この中には、比較的最近に移民してきたヒスパニック(主に中南米出身)が多く含まれているはずです。
- ヒスパニックはカトリック教徒が多いのが特徴で、本来プロテスタントの国であるアメリカにおいてカトリックのコアな基盤となっています。とくに大都市郊外の新興住宅地にはこうした人々が多く暮らし、メガチャーチ(一度に数千、数万単位の人が集まるコンサート会場のような大規模教会)の「お得意様」になっています。
- リベラル色の濃い白人民主党支持者は3割しか聖書の神を信じていないものの、45%の人は何らかの超越的存在を信じています。彼らはいわゆる不可知論者(agnostic)で、一般に日本人がイメージするアメリカ人はこの層の人々なのではないかと思われます。
アメリカのメインライン教会
メインライン教会とは以下の教派を指します。
- 最大教派のバプティスト(Baptist)、それに次ぐメソディスト(Methodist)。庶民の信者の多い教会で、アメリカ建国以来の伝統に根ざし、土着性の強い教派です。
- エリート層の信者が多いのがイギリス国教会系の米国聖公会(Episcopalian)、次いでスコットランド改革派の流れを継ぐ正統長老教会(Prebysterian)。トランプ大統領は長老教会の信者です。
- 19世紀後半に科学合理主義的な考えが社会の主流となると、ハーバート大学神学部を中心に、イエス・キリストの扱い(三位一体論)を巡って既存の教派と対立する人々が増えました。特に、イエスはあくまで人間であり、受肉した神とはいえないとする一派はユニテリアン教会(Unitarian)として独立し、一大新興勢力となりました。
メインライン教会の信者は減りつつあります。しかし歴代大統領がどの教会に属していたかを見れば一目瞭然のように、アメリカの発展に果たした役割は非常に大きなものがあります。
歴代大統領と宗教
信者数ではバプティストやメソディストにかなわない聖公会が11人、次いで長老教会が9人を輩出し、エリート層の教会であることを印象づけています。
対してアメリカでは比較的マイナーなカソリック教会が輩出した大統領はケネディたった一人。また無宗派(必ずしも無神論者ではありません)はアンドリュー・ジョンソン、リンカーン、ジェファーソンの三人だけという有様。
いかにアメリカが既成宗教の影響力が強い国かわかります。
エバンジェリカル(福音派)の台頭
現在、トランプの最大支持基盤と目されるのが福音派(Evangelical)です。
参考:トランプ政権を支える「福音派」の素顔――「エルサレム大使館移転」を実現させた宗教的世界観
福音派は上述したような教派のことではなく、信仰の合理性(例えば、聖書の描く奇蹟を科学的にナンセンスと考えるか否か、ダーウィンの進化論を肯定するか否かなど)を巡るリベラルと保守の対立から生まれた区分けです。
- 聖書の文言をそのまま信じる立場をとるのが保守派で、福音派(エバンジェリカル)と呼ばれます。外部からは批判的に、キリスト教原理主義者もしくは根本主義者と呼ばれることもあります。
- これに対して自然科学の知見を採り入れ、より「合理的」立場をとるのがリベラル派(自由主義神学者)で、エキュメニカルと呼ばれます。日本では主流派プロテスタントと呼ばれることが多いようです。
同じ福音派でも、バプティスト教会に属する人、メソディスト教会や長老派教会に属する人もいます。同様に、メソディスト教会や聖公会のなかで主流(エキュメニカル)派に属す人もいます。
近年の傾向として、エキュメニカル(リベラル派)の信者はプロテスタント全体の18%程度に留まるのに対し、エバンジェリカル(聖書信仰派)は26%程度いますので、事実上の「主流派」と言ってかまいません。
主流派が後退した原因は信者の高齢化(28%程度)だと言われます。逆に進化論を否定し主流派と袂を分かって都市部から郊外へ布教に出て行った福音派は、郊外の富裕層を取り込み勢力を伸ばし、政治的・文化的影響力を強めています。
カトリック人口の拡大
アメリカ人の4人に1人がカトリック教徒であるのは注目すべき現象です。これはメインライン教会離れもありますが、ラテンアメリカからの移民の増加が最大の躍進要因だと思われます。
カトリック教徒の約半分が外国生まれであり、6割がヒスパニック系アメリカ人なのです。この人たちは政治的には本国と同じ左派、すなわち民主党支持が多いという特徴を持ちます。
なお、キリスト教以外では、IT系人材として移住が増えたインド人のヒンドゥー教、イスラム教徒(モスリム)、仏教徒(主に東洋系人口の多い西部諸州)が信者を増やしています。
アメリカ人が神を信仰する理由
- 先祖の土地(自然)に住まず、神以外に究極の拠り所を持たないから。
- 教会が他人(地域)とのつながりを確認する場だから。
- 科学(合理主義)と信仰を分けて考える(政教分離の)政治伝統を重んじるから。
- アメリカという新国家の存在理由を霊性の面から是認したいから。
- 千年王国(新イスラエル)の地上での設立を使命と考えているから。
- 無知蒙昧な異教徒の改宗促進をミッションと考えているから。そのための道具として強大な武力、基軸通貨としてのドル、リンガフランカとしての英語、民主主義、自由市場資本主義を最大活用する。