E.N.R. クリプトモネダス

"Everybody Needs A Retreat." - 雑記帳

NHKが期せずして扱う思想対決:ハラリ vs ガブリエル

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NHKはなにか「旬」を取り扱う場合、評価の確定した「旬」しか取り上げません。

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この年末年始の教養系番組のラインアップを見ると、NHKの制作陣は歴史家ユヴァル・ハラリと哲学者マルクス・ガブリエルを旬の若手思想家と見なしているようです。

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これは期せずして面白いなと思います。人類史を大きく動かしたヘブライズムと大陸哲学の現代的バトルかもしれないからです。

ヘブライズムとドイツ観念論

ヘブライズムはマルクスに至る唯物論の元祖であり、大陸哲学はアンチ唯物論の砦です。いま風に言えば、二人は科学主義と新実在論のガチバトルを代表しているわけです。この点についてはガブリエル自身が明確にコメントをしていますのでご紹介しましょう。

news.yahoo.co.jp

ハラリと私とを関連付けて質問されたのは初めてのことですが、とても鋭い指摘だと思います。ハラリは言ってみれば、自然主義、科学主義の司祭のような存在でしょう。テクノロジーによって人類が消滅し超人が誕生するという彼の本は、聖書のテクノバージョンといえるかもしれません。

ハラリのように、自然科学だけを真実と捉え、それ以外の想像的な事象を虚構と見なす科学主義は、民主主義の基盤を損なうことにつながります。というのも、科学主義は、人権や自由、平等といった民主主義を支える価値の体系を信じないニヒリズムに陥ってしまうからです。

 ガブリエルの物言いはつねに慎重なのですが、ヘブライズムが嫌いな点だけは本音でしょう。その点ヒトラーに似ているのですね(ガブリエル氏がファシストだと言いたいのではないので、誤解のないように願います)。思考の型がいかに風土(トポス)に左右されるかを言いたいだけです。

「世界は存在しない」の意味

社会的動物である人間がお互いのトポスの違い(トライバリズム)を乗り越えていくためには、特定のスタティックな世界観(いわゆるデータ主義や科学主義)を押しつけるのではなく、別々の世界観間における「価値の共有」しかないというガブリエルの気持ちは理解できます。

ポスト・ヒトラー時代のドイツ思想家だけにガブリエルの哲学は、このように「お行儀がよく、ものわかりがいい」のが特徴です。個人的にはハラリの醒めた視線の方が好みです(ハラリが科学主義者のニヒリストとはブログ主には思えません)が、せっかくなので同じ記事から別の個所を引用しておきましょう。

私たちは今、これからの100年のために、分かれ道の前でどちらに進むかを決めなければなりません。一方の道は、世界規模のサイバー独裁や全人類の滅亡に続きます。これがまさにハラリが示したものです。そしてもう一方には、普遍的なヒューマニズムを追求していく道があります。こちらは、あらゆる人間存在の中の同一性を認識し、それを人類のこれからの発展のための原動力にしていく道です。後者に進むのであれば、私たちは、さまざまな人間存在のあり方を会議のテーブルに持ち寄り、グローバルな格差をなくしていくためのシステムを共につくらなくてはなりません。それができて、人類滅亡というファンタジーは消え去っていくのです。